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書籍紹介

会議通訳者 ――国際会議における通訳
L'interprèete dans les conférences internationales

通訳とは、言葉を置き換えるのではなく、意味を伝えるものだ。
著者 ダニッツァ・セレスコヴィッチ〔著〕 / ベルジュロ伊藤宏美〔訳〕
刊行日 2009年9月18日
ISBN 978-4-327-37817-2
Cコード 3080
NDCコード 800
体裁 A5判 並製 164頁
定価 定価2,420円(本体2,200円+税10%)

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内容紹介
 本書は、ベテラン通訳者で、ソルボンヌ大学の通訳翻訳高等学院(ESIT)の学長も務めた著者が1968年に発表したもので、通訳関係の本の中でも古典として広く知られている。それまで、とかく通訳は言葉を訳すものと考えられていたのに対して、本書は「通訳は言葉ではなく話し手の伝えようとする意味を捉え、それを通訳者自身の言葉で表現するもの」という基本的理念を提示し、通訳研究の中で「意味の理論」として知られる大きな流れを打ち立てた。欧米では会議通訳を志す人の必読書となっており、日本でも英訳版が通訳教育の教材として使用されてきた。本書はそのフランス語原典からの翻訳である。
 
●推薦のことば
 
小松達也(サイマル・インターナショナル顧問)
 本書はフランス語で書かれ、1978年に英語訳が出版された。私は著者から英語版の寄贈を受け、それを読んで自分自身の通訳経験の中で考え工夫してきたことが、明瞭に分析され文章になっていることに深い感銘を受けた。以来、私にとっては通訳についてのバイブルとして、通訳技術を考える上でも、サイマル・アカデミーや大学で通訳を教える上でも常に教材として利用してきた。通訳に最も大切なことが明瞭に描かれているので、通訳技術を学ぶ上でのテキストとして役立つからである。通訳を目指す人は、まずこの本を読んで、通訳の正しいあり方を頭に入れるべきだと思う。
 本書は、通訳の対象である「話し言葉」の特色の分析から始まる。人が話す時は、まず頭に何を話すかについてのアイディアを描き、それを言葉にする。この言語化の過程は通常ほとんど無意識であるが、アイディアがはっきりしていればいるほど言語化も容易であり言語も分かりやすくなる。通訳も原則的にこの過程と同じだと著者は主張する。そしてそのアイディア・意味を表現するには、それをイメージ化(visualize)する。この過程が著者独自の「言語と意味の分離」という考えで、これは言語学、言語心理学の見地からも興味深いものであるとともに通訳の技術から見ても貴重な考えであると思う。セレスコヴィッチ女史は理論的というより、彼女の通訳者としての体験を通して、実践的にこのような理論に到達したものであろう。このように、理論的でありながらあくまでも通訳の実践に沿って書かれているところに本書の特色があると思う。
 本書は通訳に関心のある人にとって重要な書でありながら、原本がフランス語であるためもあってこれまで邦訳が出ていなかった。このたび、フランス在住でフランス語・日本語間の通訳の第一人者であるベルジュロ伊藤宏美さんがリーダーシップをとって日本語訳を進められることになった。本書が日本語で出版されたならば、我が国の通訳教育、通訳者養成などの現場で広く利用されることが期待されるのみならず、英語教育や言語学関係者の間でも注目を受けるだろうと信じる。
 
鶴田知佳子(東京外国語大学教授)
 本書は現場の通訳者から、広く共感を持って迎えられている本である。現在、国際会議の同時通訳者また放送通訳者として活動し、通訳現場に立って、まず思うことは、ただ単語の置き換えをしても通訳にはならないということだ。通訳教育の現場に立つものにしても、同じことが実感としていえる。
 東京外国語大学外国語学部国際コミュニケーション・通訳特化コース、および同大学院総合国際学研究院国際コミュニケーション・通訳専修コースにおいて通訳の指導にあたっているが、何よりも心を砕いているのは「単なる言葉の置き換え」ではない、「意味を伝える」通訳をするにはどうしたらよいのか、またそれをどう教えたらよいのか、ということだ。
 私と本書との出会いは目白大学大学院で通訳を指導するようになった今から12年前にさかのぼる。一読して「目から鱗」の思いがし、この英語版を教科書として採用した。セレスコヴィッチ女史が指摘しているのは、「意味を伝えること」という通訳の実態に必要な現場からのアプローチである。まさに長年にわたるベテラン会議通訳者の経験と考察が集大成された本だ。
 もうひとつ、鮮やかに思い出すのがESITを初めて訪れたときに見学させていただいた授業だ。1999年9月のことだったが、まさに「意味の理論」を実践している授業で、「これがヨーロッパでもっともレベルの高いとされる通訳大学院の授業か」と衝撃を受けた。そのとき以来、ぜひ日本語に訳すべきだという思いを強く持っていたが、このたび実際にセレスコヴィッチ女史の指導を受けた、フランスでの日仏英通訳者として第一人者のベルジュロ伊藤宏美先生により、フランス語の原著からの翻訳が誕生し、まさに日本の通訳界にとって待望の一冊である。
 よって、本書を強く推薦する次第である。
  
<著者紹介>
ダニッツァ・セレスコヴィッチ(Danica Seleskovitch, 1921-2001)
仏・独・英・セルボ=クロアチア語の卓越した会議通訳者として、ドゴール大統領からも一目置かれた。その後、ソルボンヌ大学の通訳翻訳高等学院(ESIT)で、「翻訳学」を、大学で教え研究する一学問分野として確立し、世界各地から集まった研究者の指導に当たる。ESITの通訳科では、自ら通訳理論の講義を担当し、実技指導にも情熱を傾ける。1982年にはESITの校長に就任。また「意味の理論」の提唱者として多くの論文を執筆し、世界各地の翻訳理論会議で論陣を張った。
 
〈訳者紹介〉
ベルジュロ伊藤宏美(ベルジュロ・イトウ・ヒロミ)
1979年ESIT卒業。以来パリをベースに会議通訳・翻訳(日本語、仏語、英語)を職業としている。1983年AIIC (国際会議通訳者協会) 正会員となる。この時期より2001年まで日仏公式行事おける仏政府側通訳者として首脳・閣僚の会談、日仏外交協議等の通訳を務める。1980年代半ばよりESITで、仏・英→日本語の通訳演習指導に当たる。2006年12月博士号取得。日本通訳翻訳学会会員。著書に『よくわかる逐次通訳』(共著、近刊、東京外国語大学出版会)。
目次
総論
 
理解する
 I. 話し言葉
   ・消失性/・閉鎖性
 II. メッセージ
   ・話し手/・スピーチの論理一貫性/・メッセージの目的
 III. 分析
   ・逐次通訳と同時通訳/・記憶/・自然な理解/・意識的な行為:集中/・分析法
 
知る
 I. テーマ
   ・専門家と万能選手/・知的レベル/・知識の取得
   ・不十分な知識、過剰な知識/・通訳者にとって知識は手段である
 II. 言語
   ・プロ通訳者の使用言語の等級づけ/・言語を知る/・言語知識は前提である/・言語と単語
   ・スピーチ言語から訳出言語へ/・「翻訳可能な」単語の訳出/・専門用語
 
表現する
 I. 言語と思考を切り離す
 II. 母語と言語干渉
 III. 表現するとは創作である
 IV. コミュニケーションと言語純粋主義
 V. 通訳者の存在感
 VI. スタイル
 VII. 雄弁
 
会議通訳の実際
 I. 通訳者の資質
 II. 逐次通訳の実際
 III. 同時通訳の実際
 IV. 技術的な要件
 V. スピーチ原稿の読み上げ
 VI. 訳出言語の問題
 VII. 作業負担
   ・通訳する時間/・聞いている時間/・準備の時間
 VIII. 疲労
  
結語
 
付録: 通訳者が職業上取り扱う多様なテーマの例

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